私は、いまは一箇の原稿生活者である。
旅に出ても宿帳には、こだわらず、文筆業と書いている。
苦しさはあっても、めったに言わない。
以前にまさる苦しさはあっても私は微笑を装っている。
ばかどもは、私を俗化したと言っている。
毎日、武蔵野の夕日は、大きい。ぶるぶる煮えたぎって落ちている。
私は、夕日の見える三畳間にあぐらをかいて、わびしい食事をしながら妻に言った。
「僕は、こんな男だから出世もできないし、お金持ちにもならない。
けれども、この家一つはなんとかして守っていくつもりだ」
その時に、ふと、東京八景を思いついたのである。
過去が、走馬燈のように胸の中で回った。
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